第15回中原中也賞が文月悠光さんの『適切な世界の適切ならざる私』に決定しました
概要
第15回中原中也賞には、平成20年12月1日から平成21年11月30日までに刊行された現代詩の詩集170点(うち推薦詩集8点)が寄せられました。平成22年2月13日、応募作品の中から最終選考作品として選ばれた7作品を対象に、山口市湯田温泉の旅館西村屋で選考会を開催し、審議の結果、第15回中原中也賞は文月悠光さんの『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)に決定しました。
受賞作品
『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)
受賞者
文月悠光(ふづきゆみ)
略歴
1991年生、18歳〈受賞時〉
公立高校在学中
2008年 第46回現代詩手帖賞受賞
詩集『適切な世界の適切ならざる私』(2009年10月25日 思潮社)
受賞のコメント
初めての詩集を編む日々は、今まで生きてきた中でいっとう不思議な時間でした。十四歳から十七歳の間に書かれた、痛々しくも愛おしい二十四編。ひとつひとつと向き合って、重なり合う声たちを紙からひとひらずつ剥がしていきました。その営みの中、ふと「ホラホラ、これが僕の骨だ」という中也の声も聞こえてきたような気がします。
詩集の中に収めた「骨の雪」という詩は、昨年の春、祖父が亡くなり、焼き場に降り積もる骨の粉々を詠った一編です。骨は「とんがってゐる」だけではありません、雪のように柔らかく、肩に降りてきます。こんな淡いものが、ひとのからだを支えているのかと驚くほどでした。雪はときに凍りつき、頬に痛いほどに降り注いできます。しんしんと降る、と言いますが、あれは嘘です。雪は冷たいのです。刺すように痛みます。これが骨。ねえ、中也にも教えてあげたい。
雪に埋(うず)もれた札幌の街がまぶしい、そんな卒業の季節。
詩集のこと、私自身のこと、支えてくださった皆さまに心よりお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
選考経過
公募、推薦の詩集170冊について本年1月に開催された推薦会の検討の結果、山田亮太『ジャイアントフィールド』、大江麻衣『道の絵』、なかにしけふこ『The Illuminated Park 閃光の庭』、八柳李花『Beady-fingers.』、文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』、尾中俊介『CUL-DE-SAC』、浦歌無子『耳のなかの湖』の7冊が選ばれ、本日の選考会の対象とされた。
今回も最終候補の7冊について、詳しい検討が重ねられた結果、おのずから3詩集に評価が絞られた。それは尾中俊介『CUL-DE-SAC』、山田亮太『ジャイアントフィールド』、そして文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』である。まず尾中の詩集については、その具象と抽象の撚り合わさった散文詩の魅力と抜群の力量は評価されたが、新鮮さという点で不満があった。次に山田の詩集は現代感覚の強さと新しい詩の文体への意欲的な試みという点で評価され、最後まで文月の詩集と受賞を争うことになった。しかし、現代詩の狭さから抜け出ていないという点でいま一歩の説得力を欠いた。文月の受賞詩集は、14歳から17歳までに書かれた詩とは、とうてい思われない豊かな達成を示していた。若い敏感で痛々しい女性の身体感覚で世界を触っている。その詩のやわらかく伸びやかな姿が、現代詩という枠を超えた広い共感の場所を作りだしていた。そこに選考委員の一致した評価が集まった。
著者 | 詩集タイトル | 出版社 |
---|---|---|
山田亮太 | ジャイアントフィールド | 思潮社 |
大江麻衣 | 道の絵 | 私家版 |
なかにしけふこ | The Illuminated Park 閃光の庭 | 書肆山田 |
八柳李花 | Beadyーfingers | ふらんす堂 |
文月悠光 | 適切な世界の適切ならざる私 | 思潮社 |
尾中俊介 | CUL-DE-SAC | みぞめ書堂 |
浦歌無子 | 耳のなかの湖 | ふらんす堂 |
選考委員(五十音順)
氏名 | 肩書き |
---|---|
荒川洋治 | 現代詩作家 |
井坂洋子 | 詩人 |
北川透 | 詩人・梅光学院大学特任教授 |
佐々木幹郎 | 詩人 |
佐藤泰正 | 梅光学院大学特任教授 |
高橋源一郎 | 作家・明治学院大学教授 |
応募状況(一般応募作品162点)
全国40都道府県及び国外より、18歳から81歳までの162人から、162点の応募がありました。
最も応募が多かったのは東京都の21点で、山口県内からは2点(うち山口市内はなし)の応募がありました。
年代別 | 10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代 | 80代 | 不詳 |
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人数 | 2人 | 23人 | 28人 | 32人 | 34人 | 29人 | 12人 | 2人 | 0人 |
関連リンク
中原中也についての関連リンク
中原中也記念館ホームページ<外部リンク>