山口県老人福祉施設協議会からの要望
令和7年11月28日提出
老人福祉施設に係る次の項目について要望いたしますので、格別の御理解と御支援をお願いします。
重点要望事項
【老人福祉施設全般】
2025年春闘では一般企業の賃上げ率は平均5.32%(中小では4.93%)で、昨年に続き全産業で賃上げが進む中で、介護関連9団体が2024年8~9月にかけて実施した調査によれば、介護分野での賃上げ率は平均2.52%であり、一般企業の賃上げ率と大きくかけ離れている。
2024年度介護報酬改定は全体で1.59%(介護職員の処遇改善0.98%、それ以外の処遇改善0.61%)のプラス改定となったが、それでは一般企業の賃上げに追いつけていない。
このことが、介護分野から他産業への職員の流出をさらに加速させるとともに、新たな介護人材確保を極めて困難なものとしている。
一方で、介護老人福祉施設の収支差率は-1.0%(令和5年度介護事業経営実態調査結果)と極めて厳しい経営実態となっており、赤字施設の割合は、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)で43.3%、軽費老人ホーム(ケアハウス)で49.5%、養護老人ホームで56.4%(全国老施協「令和5年度収支状況等調査報告書」)となっている。
今後もこうした状況が続けば、施設の経営そのものが困難となり、地域の福祉ニーズに応えることができなくなる。
地域の福祉を守るための安定した施設経営が可能となる介護報酬、介護職員の他産業への流出を防ぎ、新たな介護職員を確保するための処遇改善について、以下のとおり要望する。
(1)介護報酬改定について(物価高騰への対応)【継続】
長引く物価高騰により、施設の運営はますます厳しくなっている。介護関係団体が実施した調査では、令和6年と比べて令和7年の電気代は1.19倍、食材料費は1.15倍、米代は2.24倍に跳ね上がっている。これらの物価高騰へ対応できるよう、また、「介護現場で働くあらゆる職員に適切な賃上げをする」ことができるよう、介護報酬(処遇改善含む)の改定を3年に1度ではなく、毎年、全産業の賃上げ、物価指数に連動する仕組み(賃金スライド制・物価スライド制)を導入するよう国に働きかけていただきたい。
2025年度予算において社会保障費は、高齢化に伴う自然増分前年度5,200億円に対して4,100億円と1,100億円減となるなどその財源確保は限界にきている。
骨太方針2025(第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現 1.「経済・財政新生計画」の推進)で示された、「とりわけ社会保障関係費については、医療・介護等の現場の厳しい現状や税収等を含めた財政の状況を踏まえ、これまでの改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う。具体的には、高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する。」ことについて、財源を明確にしたうえで早急に実現するよう国に働きかけていただきたい。
(2)福祉・介護人材確保について(処遇改善等)【継続】
今後、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大と生産年齢人口の急減が確実な未来として予測されており、介護福祉分野の人材不足は深刻である。人材不足はあらゆる産業で課題となるが、福祉・介護は、生活基盤を支えるインフラとしての機能があり、維持しなければならない。
県内では、高校、専門学校、大学等において、生徒数の減少による介護関係学科等の募集停止が生じているとともに、卒業者の県外流出も多く、今後の介護人材確保に大きな不安を感じている。関係団体との協議の場を設け、介護福祉士養成施設への支援等を早急に検討していただきたい。
全国の介護職員の数は2023年度におよそ212万6,000人で、前年度よりも2万8,000人減少となっており、介護保険制度が始まり、調査を開始した2000年度以降、初めて減少に転じている。
本県における介護職員数は、2019年度の27,421人(令和元年介護サービス施設・事業所調査)から2022年度の28,124人(令和4年介護サービス施設・事業所調査)と、3年間で703人の増加にとどまっている。第八次やまぐち高齢者プランにおける介護職員の需要・供給の推計では、2026年度は31,211人の介護職員の需要が見込まれているが2026年度までに3,087人を確保することは極めて困難である。
今後の高齢者人口や介護サービス利用の動向を踏まえ、必要な介護職員数の正確な数値を把握し、どうやって確保するのか、実効性とスピード感を備えた具体的な取り組みを推進していただきたい。
介護職員の処遇改善について、他産業平均との差は令和5年度の月額6.9万円から8.3万円に拡がっている。介護人材確保・定着を独自の施策で支援する自治体が増えてきており、本県においても早急に保育士と同様の更なる処遇改善をお願いしたい。
2025年10月以降の山口県最低賃金目安額は、1,043円(+64円)となっており、全国加重平均1,500円の目標達成に向けて、今後さらなる賃上げへの対応が必要となる。
持続的・構造的賃上げ(少なくとも最低賃金の上昇などに対応)できるよう、介護報酬に「最低賃金や一般企業等の賃金などの引き上げ率などがタイムリーに反映される仕組み」を導入するよう国に働きかけていただきたい。
また、福祉・介護人材の確保にあたって、福祉人材センターやハローワークの果たす役割は重要であるため、これらの機関が機能強化するよう働きかけていただきたい。民間の人材紹介会社では、高額の手数料の支払いが必要であり、採用後の離職率が高い状況も見受けられる。
国内だけでの人材確保が難しい中、外国人介護人材の活用が必要であるが、さらなる処遇改善や働きやすい職場環境づくりで日本人介護人材を増やしていくことを大前提に、外国人材の受入れや生活支援にあたっては相当規模の経費が必要となるため、受入施設に対する経費助成等、市町でできる支援をお願いしたい。
(3)介護施設におけるカスタマーハラスメントについて【継続】
多くの利用者や家族の方はしっかりとした良識を持っているが、一方で一部の理不尽なカスタマーハラスメントを行う利用者や家族の存在で介護現場の働く環境が悪化してしまえば、業界の不人気、イメージの悪さが加速し、業界全体にとって大きなマイナスであり、人材確保がさらに難しくなる。(精神的ダメージを受けての離職や入職希望者への悪影響)
事業所については令和3年に厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が出され、その対策を行っているが、上記理由から、国(県・市)においては、利用者、家族に対しても、カスタマーハラスメントに該当する項目や触法行為であることの内容のガイドライン等作成され、早急に周知徹底をいただきたい。また、事業所が、利用者やその家族などからの暴力や暴言、ハラスメント行為などで困ったときに相談できる相談窓口を設置していただきたい。
要望事項
【老人福祉施設全般】
(1)新型コロナウイルス感染症への対応について【継続】
新型コロナウイルス感染症について、感染症法上の位置付けが5類に変更されたが、老人福祉施設においてはその脅威は全く変わりなく、利用者が感染するとまん延しないよう感染対策が必要となる。また職員やその家族が感染すると出勤できない期間があり、少ない人員でギリギリ回っている介護現場においては職員の負担は極めて大きいものとなり、職員は疲弊し、退職を考える者もでてくるなど、介護人材の定着・確保に大きな影響がある。
施設での集団感染防止策として、施設職員や入居者等に対して、必要なときに必要な検査がすみやかに受けられるような体制の確保や抗原検査キット購入にかかる費用助成について検討していただきたい。
加えて、感染者・濃厚接触者が発生した場合に備えて、各施設で用意しにくい防護服(ガウン、キャップ等)」について、引き続き各自治体において備蓄していただき、必要なときに支給していただきたい。
また、予防ワクチンや経口薬は高額であり、すべての老人福祉施設関係者が円滑に接種、服用できるように、助成事業等の負担軽減策について検討していただきたい。
(2)利用者に対する囲い込み・過剰サービスについて【継続】
数十年かけて圏域ごとに計画的に整備されてきた介護保険施設に対してここ数年でその床数を上回る住宅型有料老人ホーム等が整備された地域もある。住み慣れた地域で(在宅で)、在宅サービスを受けられながら暮らされていた「在宅要介護高齢者」が激減している。住宅型有料老人ホーム等の乱立は、介護保険の理念である「自立支援」「利用者本位」「利用者の選択の尊重」をも蔑ろにしているのではないか。財政審が取りまとめた建議(R6.5.21)においても、
○高齢者向け施設・住まいの整備の在り方(介護保険施設の指定を受けている特養等と指定を受けていない高齢者向け住まいの役割分担・住み分けについて改めて検討し、自治体の介護保険事業計画において有料老人ホーム・サ高住も含めた高齢者向け住まいの整備計画も明確に位置付けるべき)
○利用者に対する囲い込み等への対応(利用者に対する囲い込み・過剰サービスについて、安い入居者負担で利用者を囲い込み、関連法人による外付けサービスを活用した介護報酬で利益を上げるビジネスモデルが成立している可能性がある→同一建物減算に加え、区分支給限度基準額(要介護5:36.2万円)ではなく特定施設入居者生活介護(一般形)の報酬(24.4万円)を上限とするなど報酬の仕組みを見直すべき)
などの指摘がされた。その後、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」が立ち上げられ、囲い込み対策のあり方(ケアマネジャーの有料老人ホーム事業者からの独立性や中立性を確保するための仕組みなど)が議論されている。
限られた介護保険財源が無駄に使われ続けることのないよう、たとえば、住宅型有料老人ホーム等の利用者のケアプランは公的な(地域包括支援センターなど)居宅介護支援事業所を立ち上げ、立案し、ケアマネジメントするなど、介護保険制度が将来にわたり安定したものとなるよう、国に働きかけていただきたい。
(3)老朽化に伴う施設整備補助【新規】
介護保険制度開始から25年を経て、多くの施設が老朽化しており、設備の劣化や耐震安全性が課題となっている。長引く物価高騰や人件費の上昇に加え、建築費も過去最高水準となっており、施設による資金捻出や金融機関からの借入が困難な状況が続いている。高齢者施設の老朽化は、施設の維持管理費の増大や、利用者の安全・快適性の低下を招くため、早急な対応が必要である。
県は大規模修繕ではなく改築に対しての支援を行うこととされているが、特別養護老人ホームの43.3%、軽費老人ホーム(ケアハウス)の49.5%、養護老人ホームの56.4%が赤字経営となっている現状において、新設や改築を行うことは難しい。前段の理由から、老朽化する施設の維持管理や修繕にかかる費用に対する補助金制度の創設を検討していただきたい。
(4)既存施設の地域の実情に応じた柔軟な活用について【新規】
「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会において議論されているとおり、特に中山間・人口減少地域において不可欠な福祉サービスを維持するために、既存の施設等も有効活用する観点から、地域の実情に応じた施設等の柔軟な活用を可能とするために、不動産の所有に係る要件や転用・貸付・廃止に係る補助金の国庫返納に関する規制について、一定の条件を付した上で緩和する仕組みの検討が必要である。
サービス需要が減少する中、施設等の整備について今後その機能を柔軟に変更していく必要があり、介護保険施設の一部で障害福祉サービス、保育等を行う場合に、元々の補助金の目的範囲外での返還を求められることのないよう、経過年数10年未満の施設等の全部転用の緩和等を行うなど、柔軟な制度的な枠組みの検討をお願いしたい。
なお、その際、高齢者施設から障害者施設・児童福祉施設等への転用や、複数施設の統合といった異なる分野も含めた横断的な検討をあわせてお願いしたい。
【養護老人ホーム】
(1)人件費上昇、諸物価高騰に対応した措置費の適正な改定の支援(継続)
昨年来、厚労省老健局高齢者支援課から各県や指定都市、中核市宛てに、「措置費に係る支弁額等の改定及び養護老人ホームの適切な運営、改定例、取組促進等」多くの要請文書が発出されている。
ついては、過去の未改定分も考慮した上で、昨今の最低賃金の上昇や賃金格差の是正と諸物価高騰分を反映、調整した措置費に改定していただきたい。
(2)定員割れ問題への対応と適正な入所措置の実施について(継続)
養護老人ホームの定員割れ問題は、深刻度を増している。入所者の在所期間が短くなり、定員割れが常態化したまま多くの施設が赤字経営を余儀なくされている。本来措置されるべき人が取り残されることがないよう、養護老人ホーム措置入所対象者の積極的な発見と社会的に措置を必要としている生活困窮者の適切な把握や関係部署間の連携強化を進め、入所率アップに努めていただきたい。
併せて、定員割れの現状分析と地域における老人福祉計画のなかで措置施設として位置づけられている養護の必要性とその将来像についても明確な方針を示していただきたい。
(3)加算について(継続)
[一]入所時及び退所時加算
養護老人ホームの入所者は、近年身元引受人のいない人、生活破綻者、精神疾患を持つ人等が増加している。施設は、入所時は住所変更手続代行、衣類・家財類等の整理とその運搬、債務の整理等を行い、65歳未満入所の場合は、年金手続等を行っている。また、退所時は、荷物の処分、死亡の場合は直葬手続、遺骨収集から納骨或いは永代供養等々、生前の希望に従い行っている。
以上のように支援する内容が煩雑化していることから、入所時加算及び退所時加算の創設を検討していただきたい。
[二]通院支援加算
入所者の通院対応は、原則身元引受人が行っているが、身元引受人が遠隔地にいる場合や福祉事務所長等の場合は、看護師等施設の職員が通院の支援を行っている。
入所者は、病院での受付・支払い、病状の伝達、医師の指示事項等理解が困難な人が殆どで、病院からも施設職員の付き添いを求められているが、付き添いに要する時間が長く、通常業務に大きな影響が出ている。このため、通院時の支援加算の創設を検討していただきたい。
[三]精神保健福祉士の配置加算
入所者の多様化により、利用者同士のトラブルや職員とのトラブルが増加傾向にあり、精神保健福祉士の配置の必要性が高まっている。
ついては、精神保健福祉士等の専門的な知見、技術を有する職員を配置することにより、適切な処遇が提供できるよう職員配置の見直しを検討していただきたい。
【特別養護老人ホーム】
(1)介護保険施設における食費の基準費用額について【継続】
介護保険施設における食費の基準費用額については、令和3年8月に1,445円に見直されて以来、据え置かれたままの状態となっている。一方で、令和6年11月の消費者物価数(総務省)の動向を見ると、食料価格は令和3年比で21.4%上昇(生鮮食品を除く食料は19.9%上昇)しており、いまも米の価格の高騰に伴う影響が続いている。全国老施協において実施した、物価高騰が食費に及ぼす影響調査結果から、平均規模の特別養護老人ホームにおける月次の給食関連の収支を試算したところ、一月あたり▲571,434円の赤字となっている。今後も、特別養護老人ホームの食費にかかる経費は更に増加していくと予測され、施設の創意工夫による対応は限界に来ている。
食費の基準費用額の引き上げについて、次の報酬改定を待たずに早急に実施していただくよう国に働きかけていただきたい。なお、その際、低所得者対策として、現行の補足給付制度における利用者負担限度額は維持していただきたい。
併せて、厚生労働省が定める基準費用額について、報酬改定サイクルの中間年においては賃金上昇率や物価上昇率の変動によって改定する賃金スライド及び物価スライドの仕組みを導入していただくよう国に働きかけていただきたい。
(2)利用者の入所要件について【継続】
平成27年4月より特別養護老人ホームの入所要件が「要介護3以上」となり、あわせて要介護1・2の認知症高齢者等の特例入所の制度が設けられている。近年、入所待機者の減少が著しい一方で、要介護1、2の高齢者が入所要件に該当しないために、家族が介護離職せざるを得ない状況となったり、望まない有料老人ホーム等に入居せざるを得ない状況を生じさせている。令和7年7月1日より、山口県特別養護老人ホームの入所に係る指針が一部改正され、特例入所の要件に該当することの判定に際し、[一]「地域の実情等を踏まえ、各自治体において必要と求める事情があれば、それも考慮すること」並びに[二]考慮する事情についての具体例が追加されており、特例入所については、市町による対応の違いがないよう入所判定の平準化に努めていただくとともに、在宅介護の困難さに応じて柔軟な対応ができるようにしていただきたい。
(3)介護DXの推進について【継続】
介護人材が不足する中で、介護ロボットやICT等を活用した最新機器の導入やLIFE普及のための通信設備により、業務の質向上や効率化、職員負担を軽減することは、少ない人員で回る介護現場をつくることよりも、介護現場を魅力あるものとし、介護職員の定着や新たな介護職員の確保につなげるために、ますます必要となっている。
令和7年度山口県介護テクノロジー定着支援事業により、機器導入に関する補助金が大幅に増額されたところであるが、導入後の保守管理も大きな負担であり、更新時の費用の捻出も懸念されることから、保守管理費や更新費用等に対する補助金等、市町でできる支援をお願いしたい。
(4)日常生活継続支援加算の要件緩和について【継続】
特別養護老人ホームの施設経営に大きな影響がある「日常生活継続支援加算」の算定要件の1つとして、「前6月又は前12月の新規入所者のうち、要介護4又は要介護5の者の占める割合が70%以上であること」とあるが、定員の少ない施設では入退所が少なく、算定要件を満たすことが難しい状況がある。新規入所者総数ではなく、在籍者の割合へ変更するよう国に働きかけていただきたい。
また、「山口県特別養護老人ホームの入所に関する指針」の改正に伴い、特例入所の受入れによって算定要件を満たさないことが懸念されるため、特例入所への配慮を検討していただきたい。
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