山口県医師会からの要望
令和6年11月18日提出
来年度予算編成に向けて、下記事項について、ご高配賜りますよう、よろしくお願いします。
記
1.医療費助成事業の審査支払業務の改善
医療費助成事業(「乳幼児医療」「ひとり親家庭医療」「重度心身障害者医療」)に係る審査支払業務については、社保分及び国保分の両方を、各市町からの委託を受けて山口県国民健康保険団体連合会が実施しているため、医療費を請求する医療機関の多くが、未だに社保分(毎月、1万人分程度)について紙ベースを含めた非オンラインでの請求を余儀なくされている。
このため、新型コロナウイルス感染症の第7波における医療機関での保険請求事務は繁忙を極め診療にも影響が及ぶなど、診療・検査医療機関からは、保険請求のオンライン化を求める多くの声があがっている。
また、国は保険請求のオンライン資格確認を令和4年6月に閣議決定するなど、医療機関のデジタル化を積極的に推し進めようとしているなかで、非オンラインでの請求は国の流れに逆行するものである。
ついては、医療費助成事業に係る保険請求が、既存のレセプト請求により自動的にオンライン請求できるよう、各市町が社保分については社会保険診療報酬支払基金と保険請求委託契約を締結するなどの早急な改善をお願いする。
2.生後2週間児・1歳児健診への公費助成の推進
生後2週間児は胆道閉鎖症など重症疾患の早期発見、母乳育児の支援や産後うつ病の予防など、重要な時期である。産後2週間、1か月での産婦健診は全市町で行われているが、小児科においても健診の機会を持つことで母子のメンタルヘルス支援を多面的な視点で行うことが可能となる。また、1歳0か月は栄養の面では離乳の完了期にあたり、さらには麻疹・風疹(MR)ワクチン、水痘、ムンプスワクチンなどの予防接種の開始時期と重なり、そのチェックが必要である。現在1市で生後2週間児の小児科医による相談事業が、4市2町で1歳児健診が公費で行われているが、全市町で生後2週間児、1歳児の健診が公費負担により実施されるようお願いする。
3.HPVワクチン接種の推進
(1) キャッチアップ接種期間の延長
国のキャッチアップ接種は令和7年3月末で終了するが、令和6年度のキャッチアップ接種対象者で、令和6年度中に、1回目又は2回目を終えた女性に限り、令和7年4月以降の接種であっても、残りの1~2回分の接種費用の助成をお願いする。
(2) 男性接種の公費助成の導入
9歳以上の男性に対しても、肛門がんなどHPV関連がんの予防のために4価ワクチンの任意接種が可能となっており、全国的にも男性接種の公費助成を導入した自治体も増加してきている現状を踏まえて、接種費用の助成をお願いする。
4.やまぐち3070運動の推進
令和6年度に県事業として開始された「やまぐち3070(サンマルナナマル)運動」を推進し、女性特有のがん検診未受診者を一人でもなくすよう、以下の節目年齢を対象とした取り組みをお願いする。
(1) 30歳女性
30歳の子宮頸がん検診未受診者をなくすための個別勧奨・再勧奨の徹底
(2) 40歳女性
県事業のやまぐち3070・ピンクリボンキャンペーンと連携した、40歳女性の子宮頸がん・乳がん検診未受診者をなくすための個別勧奨・再勧奨の徹底
5.任意予防接種の助成の推進
百日咳は現在、小中学生での発症、ポリオは海外での発症が見られており、日本小児科学会で推奨されている就学前あるいは11~12歳の3種混合(DPT)ワクチン、就学前のポリオワクチンの費用助成についても全市町にお願いする。
小児に対するインフルエンザワクチンは現在1市3町で助成が行われているが、小児のインフルエンザの発症及び重症化を予防するため、市町での流行を阻止するためにも、全市町で助成をお願いする。
B型肝炎は肝がんの原因になるウイルスである。B型肝炎ワクチンは平成28年10月から1歳未満の小児が定期接種の対象となったが、定期接種化前に生まれた未接種の小児はなくB型肝炎ウイルスに感染する可能性があるため、公費助成の導入検討をお願いする。
6.健診に推定1日食塩摂取量検査を追加
特定健診等での尿検査に尿ナトリウム(Na)、尿クレアチニン(Cre)検査を加え、推定1日食塩摂取量検査を追加することを希望する。
食塩の過剰摂取は高血圧を引き起こし、脳血管疾患、心疾患、慢性腎障害等、生活習慣病の要因となる。山口県民の成人の1日食塩摂取量は、厚生労働省が設定する目標値より高く、減塩推進が必要である。推定1日食塩摂取量検査は随時尿で測定できる比較的安価な検査である。高血圧治療ガイドライン2019でも「尿中ナトリウム測定値から推定した1日尿中食塩排泄量を評価し、食物摂取限度調査など簡便な調査票を用いて具体的かつ実践可能な減塩手法を提案することが重要である」と示してある。
健診結果の説明、指導の現場においても、この結果をもとに食事指導をすると、説得力があり、受診者の皆様が納得して自身の現状を受け止め、積極的に減塩を取り組もうとする。結果的に、住民の皆様の循環器系疾患の発生や重症化予防につながる。
令和6年11月現在、山口県内では、宇部市、山陽小野田市、萩市、周防大島町、阿武町で特定健診の尿検査の項目に推定1日食塩摂取量検査を加えている。この検査を各市町で行い、山口県全域での減塩推進に努めたいと考える。
7.救急勤務医に対する支援
若手医師の減少で救急医療体制の維持が困難となっていることから、県に対して、休日・夜間の救急医療に従事する医師の処遇改善の支援を要望したところ、令和6年度当初予算で、救急勤務医支援事業が予算措置された。
当該事業は、救急病院・診療所から休日・夜間の救急医療に従事する医師に支給される救急勤務医手当に対して、県が1/3を補助するもので、残りの2/3は医療機関等が負担することとなっている。
救急医療体制の維持や若手医師の確保は、地域医療を守っていくうえで欠くことのできない取り組みなので、事業の主旨をご理解いただき、ご支援をお願いする。
8.認知症発症予防対策としての中等度難聴者に対する補聴器購入費用助成
厚生労働省の「令和元年国民生活基礎調査」によると、65歳以上の人口における認知症発症率は、山口県では2.58%(12,000人)で、全国で10番目の多さである。
認知症の予防が期待できるとされていることとして、1)食習慣の改善、2)運動習慣、3)対人接触を増やす、4)知的行動・趣味を始める、5)睡眠習慣の改善、6)目や耳の機能維持、等が挙げられる。このうち、1)から5)は家庭で実施できるが、6)に関しては、視力‧聴力検査等、医療の介入も必要である。
2017年と20年に、世界的に権威のある医学誌(Lancet)により「難聴が、認知症の予防可能な因子40%のうちの9%(後に7%に修正)を占め、高血圧、肥満、糖尿病、喫煙、うつ病、社会的孤立、運動不足、教育等をしのぐ最大の危険因子」であることが指摘された。
両側の聴力が70dB以上では身体障害者手帳が取得でき、補聴器購入費用が助成されるが、40〜70dBの中等度難聴者には補聴器購入の際の助成がない。日本の補聴器普及率は他の国に比べ非常に低いとの調査結果が示されており、その理由の一つとして、眼鏡と比較するとかなり高額である補聴器購入費用が影響していると思われる。
令和5年12月の時点で、軽度難聴者に対する補聴器購入費用を助成している自治体は、全国で238(全体の14%程度)。新潟県では助成率100%とのことだが、山口県では、下関市と岩国市の2市のみとなっている。
認知症発症率が全国で10番目に多いという不名誉な状況を打破し、かつ認知症に対する医療費の増加を防止するため、認知症発症リスクを減少させることが期待される成人の中等度難聴者の補聴器使用が促進されるよう、補聴器購入費用の助成をお願いする。
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